横浜FCと横浜FCと横浜FCとあと横浜FCなんかに関して書いたり書かなかったりします。ほかの事を書くこともあります。
by naminos
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30
十三日間日本一周 drive08 3rd day 篠田
電話を切った僕らは薄暗い蛍光灯の下で抱きしめ合った。

などいうことはまったくなく、ひたすら緊張して照れてまともに会話にならない篠田を持て余して、段々緊張が伝染ってきている自分も同時に持て余している、微妙な距離を置いて車へ目を合わさずにあたりさわりのない会話をしながら移動する俺と篠田(仮名)がいただけだった。

旅に出て3日目の深夜0時30分ごろ。俺は旅に出て初めて、知っている人間と会ったのだが、初対面には違いないのでなんだか不思議な感じはしていた。だが、そんな感慨にふけっているヒマはなかった。とにかく篠田嬢の緊張と照れが尋常でないのだ。そしてその緊張と照れは俺にも伝染し、車までたどり着くまでにピークに達していた。

ひとまず彼女を車に乗せて、俺は駐車料金を支払いに行った。なんで俺までこんなに緊張してんだろう。意外な自分の一面に驚きつつクルマを見ると篠田はうつむいたままケータイを見ているようだった。とにかく俺は腹が減った。腹が減っているから緊張しているだけに違いない。きっとそうだ。深呼吸をして、自動支払機からおつりを取るとクルマに戻った。


俺「お待たせ」
篠「あ、はい」
俺「んー」
篠「はい?」
俺「とりあえず晩飯を・・・」
篠「まだなんですか」
俺「はい、まだです」
篠「私食べないけど、いいですよ」
俺「悪いねー」

クルマを駐車場から出し、通りへ出る。彼女の指示のままにクルマを走らせる。この辺はいつも友達と来てるんですよ、彼氏?彼氏はいまいませんて。そうだっけ?などとあまり内容のない会話をぎこちなく続けながら、10分ほど走ったところのファミレスに入った。

篠「ここいつも来るので」
俺「誰かに見られるとまずい?」
篠「見られてまずいことはないです」
俺「じゃここで食う。もう限界」

俺は和風ハンバーグのセットか何かをドリンクバー付で頼んだ。篠田は本当に何も頼まなかったが、普段から注文しないでファミレスにいるのに慣れているんだろう。何度か促したが、俺も無理に勧めることはしなかった。

俺「時間、大丈夫なの?」
篠「それがですね」
俺「遅すぎたかな。さすがに」
篠「遅いのはいいんですけど、バイトが」
俺「朝早いの?」
篠「ううん。3時からチャットのバイト」

ああ。そういえば旅に出るちょっと前に、チャットの相手をするバイトを始めたとか言ってたなあ。そんなシフトなのか。肌に悪そうだ。

俺「あらー。寝ないといかんのに無理に呼び出しちゃったかな。ごめん」
篠「いやーいつも寝ないのでいいです」
俺「ならいいんだけど」

俺が遅い夕食を平らげた頃にはさすがに緊張もほぐれてきて、会話もスムーズになっていた。午前1時30分。このファミレスは平日なのに結構混んでいる。
2人で交わした最初の話題は、普段行っているチャットメンバーに関してのことだったが、他にさして共通の話題があるわけでもなく、至極当然の流れではあった。特にF氏とD氏については興味深々のようで、会ったことはあるか、どんな風貌かなど聞かれ少しがっかりして「俺のことはぁ?」と冗談めかして言うと、「今会ってるから聞く必要ないじゃないですか」と笑われた。ごもっともである。
その後はいろいろな話が飛び交ったのだが、彼女の話題の多くは、彼女の友人と友人と彼女のことについてだった。それだけ友人を大切に思っているのか、それとも他に話題がないのかまではわからないが、少なくとも孤独の中に埋もれている人間ではないように思えた。一般的な話しかできない俺を「物知りでうらやましい」と彼女は言ったが、多くの友人と日々楽しそうに過ごしている彼女の方がよほどうらやましいと俺は心底思っていた。

当時は知識がなかったのであまり気にしていなかったのだが、今思えば篠田嬢はやたらと氷をかじっていた。明らかに氷食症の症状だったのだが、その日は「氷うまい?」「おいしいよ」という他愛のない会話しかしてなかったのだった。

俺が3杯目のコーヒーを飲み干す頃、もう2時を過ぎていた。篠田の自宅までは遠くないのでバイトの時間はは大丈夫だが、せっかく来てファミレスでだべっていただけではつまらないので、少しドライブでもしようかということになった。

篠「ごめんね。バイト遅れるとなんか評価とかよくないんで」
俺「何、無理やり予定ねじ込んだのは俺のほうだから、ごめんね」

クルマに戻った頃にはだいぶ2人ともリラックスしていた。

俺「どっち行けばいい?」
篠「いいとこあるから、とりあえず左」
俺「了解」

彼女の指示するままに進むと、クルマはだんだん高台に上がっていった。高台は街灯も少なく人気もなかった。道も細くなってきて「どこにいくんだぁ?」と思った頃、

篠「そこを左ね」

ハンドルを切ると眼前に一杯の夜景が飛び込んできた。

俺「おお。いいね」
篠「でしょお。わたしの一番好きな場所だよ」

俺は見事な北九州の夜景を眺めながら、あれはどの辺かこれはどの辺かと地元の人間に無粋な質問を繰り返したが、そのうち篠田が笑い出した。

篠「ここにこの2人でいるのってすっごい不思議ー」
俺「まあちょっと前までは会う可能性もなかったからなぁ」
篠「面白すぎるー」
俺「明日の予定を考えると俺は笑ってられないけどな」
篠「どこまで行くの?」
俺「とりあえず鹿児島まで行きたいけど、そのあと四国行って本州ずっと行って、時間が許せば北海道まで」
篠「北海道行きたいなー」
俺「一緒に行く?」
篠「行きたいなー。でもバイトが」
俺「わはは。バイトじゃしょうがないな」

しばらく夜景を眺めながら考えた。今日のこの瞬間もこの子の記憶にとどめてもらえるのだろうか。この子が友人と共有している多くの思い出の片隅に、この時間も加えてもらえるのだろうか。夜景を見て、タバコを吸いながら、そんなことをぼんやり考えていた。

時計をふと見ると、もう3時まであまり間がなかった。

俺「時間。急がないと」
篠「ほんとだ、ごめんね。」
俺「5分で着くかな」
篠「大丈夫。ほんとにそこだから」

クルマを留め、「またね」「うん、また」「メールしてね」「もちろん」「また来る?」「今度は篠田が来るべき」「あははそうだね」などと交わした後、彼女は手を振りながら路地に消えていった。別れは慌しく、名残もなにもなかったが、これからまた1人になるので、むしろそのぐらいのほうがよかったのかもしれない。

俺はクルマを福岡に向けた。途中少し休憩もしながら、午前5時。俺は名島ICを降りてすぐのコンビニにたどり着き、そこでようやくゆっくり仮眠を取った。長い1日だった。
b0060919_65587.jpg

[PR]
by naminos | 2004-12-01 04:30 | 連載
<< ソフトバンク・ホークスはファン... ズッコケ3人組シリーズ50作で完結 >>